戦争リスクが金を押し上げるも、ドル高が上値を抑制
イスラエルおよび米国によるイラン攻撃を受けた最近の情勢激化は、市場心理を大きく変化させた。軍事的な直接の影響にとどまらず、この紛争は地域全体の不安定化、エネルギー供給の混乱、世界経済への波及に対する懸念を再燃させている。1
世界の原油フローの中心地域における供給ショックのリスクを受け、原油市場は急反応した一方、金と銀はリスク回避姿勢の再燃を受けて上昇した。1 同時に、株式市場は深刻な見出しにもかかわらず反応が限定的であり、地政学的緊張の局面における守りの資産配分としての金の伝統的な役割を改めて裏付けた。
しかし、当初の金価格の反発は急速に失速した。実質金利の上昇とドル高を背景に、地金価格は上値を伸ばせず狭いレンジでの取引が続いている。このような状況では、米国イールドカーブのベアフラットニング(弱気平坦化)がドルを下支えする傾向があり、ドル高がさらなる金価格上昇の重しとなっている。
マクロ環境は支援材料も、金は一服が必要
マクロの観点からは、貴金属を取り巻く環境は引き続き支援的である。イランとの戦争の勃発、米国関税を巡る新たな不確実性、そして予想を上回る米国の生産者インフレはいずれも、金にとって根本的に前向きな環境を形成している。
しかしテクニカル面では、足元の上昇局面はやや行き過ぎている可能性が示唆される。金は史上最高値である5,595ドル近辺で取引されており、この水準を上抜けるにはしばらく時間を要するとみられる。
ポジションデータも、投機的な過熱感が限定的であることを示唆している。先物市場のネットロングは落ち着きを見せており、金ETFの保有残高の増加も緩やかで、銀ETFの資金フローはまちまちとなっている。
これらを総合すると、構造的な見通しは引き続き支援的であるものの、市場がさらに上昇するにはいったん調整局面を経る必要がある可能性が示唆される。
関税とインフレが金の魅力を強化
地政学リスクは単独で作用しているわけではない。米国の関税実施を巡る法的紛争や、より広範な関税措置の提案は、通商政策にさらなる不確実性をもたらしている。1
同時に、米国の生産者物価は2025年初め以来で最大の月間上昇率を記録しており、インフレ圧力が再燃しつつあるとの懸念を強めている。2 通商不確実性、財政拡張、インフレ圧力が重なり合う環境下では、ヘッジ手段としての金の魅力は大きく高まる。
金ETFに資金が殺到
価格動向にとどまらず、資金フローも金の重要性を強く裏付けている。イランを巡る紛争が激化し世界の株式市場が軟調に推移する中、投資家は多額の資金を金価格連動型ETFに振り向けた。3
直近の資金フローデータでは、世界の金ファンドに週間数十億ドル規模の資金が流入し、力強い需要が数週間にわたり続いている。年初来の資金流入額は過去の年間最高記録を上回るペースで推移しており、守りの資産へのポートフォリオの明確な再配分を浮き彫りにしている。3
1月単月だけでも、金ETFへの資金流入額は過去最高水準の一つを記録した。この加速は、短期的な投機ではなく機関投資家の確信を反映していることを示唆している。
銀ETFにも関心が集まっているが、現在の環境下では、より直接的な安全資産としての性質を持つ金を選好する投資家が多いようだ。3

金はポートフォリオの安定装置であり続ける
地政学的緊張が高まる局面では、金はポートフォリオにおける主要な安定装置として機能する傾向がある。銀もエクスポージャーを補完し得るが、貴金属と工業用金属という二重の性質を持つため、成長期待に対する感応度がより高くなる。3
投資家は、安定性を重視して金により重きを置きつつ、貴金属ETFにポートフォリオの一定かつ抑制的な割合を配分することを検討してもよいだろう。3
金に対する構造的な強気材料は、マネーサプライの増加、財政赤字の拡大、過去最高水準に達した政府債務残高への懸念によってさらに強化されている。3 これらの要因は、歴史的に通貨ヘッジとしての金の役割を下支えしてきた。
地政学リスクの高まりで金は6,000ドルを視野に
金の年初来の急伸は、典型的なリスクオフのポジショニングを反映している。投資家は、地政学的不安定性、インフレ期待の上昇、そして総合物価が上昇する中でも実質金利が抑えられたままとなる可能性に対する備えを求めている。
原油価格が力強い成長ではなく供給懸念によって上昇する場合、金には安全資産としての資金流入とインフレヘッジとしての役割という二重の追い風が生じる。地政学リスクがかつてない高まりを見せていることから、金は年末までに6,000ドルまで容易に上昇し得る。
金の勢いは、不透明な市場における投資家の慎重姿勢を反映
金は年初来、主要株価指数を大幅にアウトパフォームしており、これは財政の持続可能性や政治的不透明感に対する投資家の懸念を反映している。しかし数十年単位の長期で見れば、歴史的に株式の方が複利リターンで優れた成果を上げてきた。3
この乖離は重要な点を浮き彫りにしている。すなわち、金は株式の代替ではなく、それを補完するものだということである。金の主たる機能は、分散されたポートフォリオにおいてマクロ経済リスクや地政学リスクを軽減することにある。3
金の上昇は一服も、強気シナリオは健在
中東情勢の激化、インフレ圧力、関税を巡る不確実性、財政の逼迫が重なり合うことで、金にとって構造的に支援的な環境が形成されている。
ただし力強い上昇の後だけに、テクニカル指標は買われ過ぎの状態を解消するための一服が必要となる可能性を示している。地政学的緊張がさらに激化しない限り、近い将来の展開としては価格急騰よりも調整局面の方が可能性が高いとみられる。
もっとも戦略的には、金は引き続きリスクオフの資金フローと堅調なETF需要に支えられており、ポートフォリオの保険としての金の役割は依然として堅固に維持されている。
脚注:
1Kitco, Gold and silver rallies likely on pause despite new tariffs, higher inflation, and Middle East escalation – StoneX’s O’Connell、2026年3月3日時点
2Kitco, Investors pour into gold ETFs as Iran conflict adds to the funds' appeal、2026年3月3日時点
3Bureau of Labor Statistics, Economic News Release, Producer Price Index News Release summary、2026年2月27日時点
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