大型銀行株はこの1年で大きく上昇した。利回り曲線のスティープ化、資本市場業務の活況、株式市場の上昇に後押しされ、際立ったリターンを生み出している。しかし、さらなる上昇余地は残されている。なぜなら今、大型銀行はテクノロジー中心の企業へと急速に姿を変えつつあり、この構造的な変化が企業価値評価に影響を及ぼす可能性が高いからだ。
銀行はよりスケーラブルになっている
かつて、銀行の成長は比較的直線的だった。金融機関がより多くの顧客を獲得しようとすれば、通常はより多くの実店舗と融資担当者が必要だった。しかし、テクノロジーがそのルールを変えつつあり、銀行は指数関数的な成長を生み出せるようになっている。今日、デジタルバンキングプラットフォームを持つ金融機関は、追加の物理的コストをほぼゼロに抑えながら、数百万人規模の新規顧客を獲得できる可能性がある。
近年、業界内でこのスケーラビリティが実際に確認されている。JPモルガンのオンライン銀行Chaseはその好例だ。2021年に英国でサービスを開始し、わずか1年で100万人を超える顧客を獲得し、実店舗を一つも持たないまま100億ポンドの預金を集めた1。2024年末までに、顧客数は250万人2に達し、預金額は200億ポンドを超えた。
このような新たなレベルのスケーラビリティと潜在的なオペレーティングレバレッジを踏まえると、株価純有形資産倍率(P/TBV)のような従来の銀行バリュエーション指標は、その意味合いを薄めつつある。なぜなら、銀行の価値はもはや物理的資産やバランスシートによって制約されるものではなくなっているからだ。投資家は銀行を、資本と物理的な店舗網に縛られた機関としてではなく、データ、ソフトウェア、スケーラブルなプラットフォームによって成長する事業として捉え始めている。今後、銀行がテクノロジーを取り入れるにつれて、この傾向はさらに勢いを増していく可能性が高い。
テクノロジーが新たな収益源を切り開く
テクノロジーは、銀行が新たな収益源を生み出す助けにもなっている。銀行業はもはや純金利収益だけの世界ではない。今日の銀行は、「組み込み型金融(embedded finance)」や「バンキング・アズ・ア・サービス(BaaS)」ソリューションを開発することで、金利水準に左右されない、継続的な手数料収益を生み出すことができる。
その好例が、ゴールドマン・サックスのトランザクション・バンキング(TxB)プラットフォームだ。これは他社のソフトウェアから利用されることを前提に設計された、クラウドネイティブのプラットフォームである。
TxBは、フィンテック大手のStripeを含む幅広い企業に銀行APIを提供している。企業が「Stripe Financial Accounts for Platforms」を利用する際、その背後にある銀行インフラはしばしばゴールドマン・サックスによって提供されている。
このプラットフォームは、金利水準に左右されない継続的な手数料収益を同行にもたらしている。バリュエーションの観点で見れば、ゴールドマン・サックスは収益が変動しやすい投資銀行から、安定した手数料収益を持つ「プラットフォーム企業」へと軸足を移してきた。
なお、組み込み型金融市場は急速に拡大しており、Dealroomおよびオランダ大手銀行ABN AMROのベンチャー部門ABN AMRO Venturesのレポートによれば、2030年までに世界全体で7.2兆ドル規模に達すると見込まれている3。したがって、これは今後数年間、銀行にとって大きな成長ドライバーとなり、バリュエーションを押し上げる一因になり得る。
AIがコストを劇的に押し下げる
とはいえ、銀行にとってテクノロジーは収益面の話だけではない。コスト削減の物語でもある。近年、銀行はAIに多額の投資を行っており、それが今、大きな効率化の成果として表れ始めている。
バンク・オブ・アメリカのAIバーチャルアシスタント「Erica」を例に挙げよう。現在、約5,000万人のユーザーに利用されており、顧客の口座管理や疑問への回答をサポートし、累計対応件数はすでに30億件を突破した4。特筆すべきは、Ericaが顧客からの問い合わせの98%を人手を介さずに解決している点だ。その結果、同行は1日あたり約11,000人分のスタッフの業務量に相当するコストを削減している5。
もちろん、AIテクノロジーが効率を劇的に高められる銀行業務の領域は、カスタマーサービスだけにとどまらない。他にも以下のような領域が挙げられる。
顧客オンボーディング:PwCの調査に回答したある金融機関は、AIを活用したオンボーディングおよび本人確認ツールにより、法人顧客の確認コストが40%減少したと報告している6。
融資:AIを活用して代替データを分析することで、銀行は全体のリスクを高めることなく、融資対象プールを大幅に拡大し、より多くの顧客を承認できる。
マネーロンダリング対策:AIは取引パターンを監視し、疑わしい取引報告書(SAR)を自動的に作成できる。
規制動向のスキャン:AIは世界中の規制改定情報を毎日数千ページ規模でスキャンし、コンプライアンス維持のために更新が必要な社内方針を自動的に洗い出すことができる。
こうしたさまざまな活用事例を踏まえると、AIは今後数年間で銀行の効率性レシオ(収益1ドルを生み出すのに要するコスト)を大きく改善させる可能性が高い。PwCによれば、AIを全面的に導入した銀行では、効率性レシオが15ポイント改善する可能性があるという6。
なお、銀行にとってのコスト削減の物語はAIだけにとどまらない。今後数年間で効率性を劇的に高める可能性のあるもう一つのテクノロジーがブロックチェーンだ。ファンドストラットのマネージング・パートナー兼リサーチ責任者であるトム・リー氏によれば、JPモルガンのような銀行はブロックチェーンの活用によって従業員数を大幅に削減できる可能性があるという。同氏は、ブロックチェーン上に構築されたJPモルガンであれば、現在の30万人超の従業員に対し、必要な人員はわずか2万人程度で済むかもしれないと述べている7。同氏の見方では、ブロックチェーンの活用拡大は銀行の評価方法そのものを根本的に変える可能性がある。
テクノロジー重視の銀行がより高いバリュエーションを獲得
JPモルガンに焦点を当てると、同行は現在、テクノロジー変革に多額の資金を投じている。現在の年間テクノロジー予算は180億ドルに上る8。
この巨額の予算により、同行は文書の要約、コードの記述、メールの下書き作成が可能な独自の社内生成AIアプリを構築することができた。現在、これは20万人の従業員に利用されている。同社はまた、ほぼすべての決済関連アプリケーションをパブリッククラウドまたは戦略的データセンターへ移行し、パーソナライズされた顧客体験のためのリアルタイムデータ分析や、より迅速な不正検知を可能にしたほか、独自のブロックチェーンプラットフォーム「Kinexys」の構築も進めている。つまり、同行では現在、数多くのイノベーションが進行中だ。
成果という観点では、まだ初期段階にある。しかし市場はすでに、JPモルガンをより高いバリュエーションで評価し始めている。現在、同行の株価純有形資産倍率(P/TBV)は約3.29倍で、業界平均の2倍以上の水準にある。株価収益率(PER)についても、予想PERは約15倍と、セクター平均を大きく上回っている。
明らかに、JPモルガンはもはや単なる銀行として評価されているわけではない。同行のテクノロジー戦略は、投資テーマの一部として組み込まれつつある。AIとブロックチェーンへの投資が実を結んでいることを示せれば、同社株のバリュエーションはさらに上昇する可能性がある。
銀行株をめぐる新たなナラティブ
まとめると、金融機関がテクノロジーによって業務を近代化させるにつれて、銀行のバリュエーションは大幅な上方修正(リレーティング)を迎える可能性がある。銀行がAIによってプロセスを強化・効率化するにつれ、投資家はこれらの銀行をよりテック企業に近い形で評価するようになるだろう。銀行株をめぐる物語は、もはや金利や純金利マージンだけでは語れない。今日のナラティブは、データ、ソフトウェアプラットフォーム、継続的収益、自動化、そしてスケーラビリティにある。
Footnotes:
1Chase, Chase exceeds one million U.K. customers as it marks first anniversary, 2022年9月28日時点
2JPモルガン、2025年5月27日時点
3WeForum, Why embedded finance is a disruptive force financial institutions can't ignore, 2025年4月8日時点
4バンク・オブ・アメリカ, A Decade of AI Innovation: BofA's Virtual Assistant Erica Surpasses 3 Billion Client Interactions, 2025年8月20日時点
5The Financial Brand, What Banks Can Learn from BofA's Multi-Billion Dollar AI Bet, 2025年12月8日時点
6PwC, The future of banking: How AI is reshaping the industry, 2025年10月16日時点
7X, Crypto Town Hall, TOM LEE SAYS BLOCKCHAIN WILL CHANGE HOW BANKS ARE VALUED, 2025年12月27日時点
8JPMorganChase, We're one of the world's largest tech and data-driven companies, 2026年1月14日時点
9LSEG, 2026年1月14日時点
執筆者は、Themes Management Company LLCの米国関連会社であるLeverage Shares LLCの業務委託先です。Leverage Shares LLCは、会社間サービス契約に基づきThemesへ一定のサービスを提供しています。