金は2025年、驚異的な値動きを見せている。地政学リスクの高まり、各国政府の債務水準への懸念、そして米国の利下げ観測を追い風に、この貴金属は年初来で約40%上昇した。しかし、この上昇率も、2025年における一部の金鉱株のリターンと比べれば見劣りする。金価格の大幅な上昇を背景に、多くの金鉱株が年初来で100%以上値上がりしているためだ。
金鉱株は金価格に対するレバレッジ銘柄
現在、多くの金鉱株が金価格そのもののパフォーマンスを上回っている理由は極めてシンプルだ。端的に言えば、これらの銘柄は金というコモディティに対するレバレッジ銘柄だからである。金価格が上昇すると、金生産企業の売上高は、比較的固定的なコストに比べてはるかに速いペースで増加する傾向がある。この力学がオペレーティングレバレッジを生み出し、コモディティ価格のわずかな上昇でも収益性が大きく改善する結果につながる。
簡単な例で説明しよう。ある金鉱企業が金1オンスを生産するのに2,000ドルのコストがかかるとする。金価格が1オンス=3,000ドルの場合、同社の利益は1オンスあたり1,000ドルとなる。しかし金価格が3,500ドルまで上昇すると、利益は1オンスあたり1,500ドルへと増加する。つまり、コモディティ価格の16.7%の上昇が、生産企業にとっては50%の収益性向上につながるのだ。この収益性への増幅効果こそが、金相場の上昇局面で金鉱株を大きく押し上げる原動力となっている。
現在、極めて高い収益性
多くの金鉱企業は、現在よりも大幅に低い金価格を前提にビジネスモデルを構築してきた点に留意すべきだろう。これらの企業は、金価格が2,000ドルを下回る水準でも採算が取れるよう設計されており、人件費、設備費、エネルギーコスト、管理費などを含む総維持コスト(AISC)は、現在の金価格を大幅に下回っている。
例えば、米国、ブラジル、オーストラリア、エジプトなど9カ国で鉱山を保有し、2025年に290万~322.5万オンスの金生産を目指すAngloGold Ashanti(4.74%*)は、年間のAISCを1オンスあたり1,580~1,705ドルと見込んでいる1。米国、カナダ、ブラジル、チリ、モーリタニアに鉱山を持ち、今年約200万オンスの金生産を目標とするKinross Gold(4.66%*)に目を向けると、AISCは1オンスあたり約1,500ドルと見込まれている2。
こうした企業にとって、現在の金価格水準は大きな追い風となっている。AISCが1オンスあたり約1,500~1,700ドルである中、金価格が1オンス3,700ドル近辺で推移していることを踏まえると、これらの企業は多額の売上高と利益を見込める状況にある。そして金価格が上昇すればするほど、利益もさらに拡大する可能性がある。営業コストの多くが変動費ではなく固定費であるため、売上高の増加分の大部分がそのまま最終利益に反映されやすい。なお、9月24日時点で、この2銘柄の株価は2025年にそれぞれ約190%、150%上昇しており、今年に入り金価格を大幅に上回るパフォーマンスとなっている。
金鉱株を押し上げるその他の要因
オペレーティングレバレッジ以外にも、金価格上昇局面において金鉱株がアウトパフォームする要因はいくつか考えられる。一つは財務体質の改善だ。利益率が高まると、金鉱企業は借入金の返済を進め、バランスシートを強化できることが多い。株主への配当の開始や増配に踏み切ることもあり、これによりより幅広い投資家層にとって魅力が高まる可能性がある。また、増加した利益は既存事業の拡張や増産のための再投資、あるいは新たな金鉱床を発見するための探鉱活動に振り向けられることもある。こうした取り組みは将来の成長につながり、株価を押し上げる要因となり得る。
金相場の見通し
今後について、金価格が上昇を続ける保証はない。しかし、このコモディティは現在力強い上昇トレンドにあり、多くの専門家が中期的にさらなる上昇を見込んでいる。例えばJPモルガンのアナリストは、2026年後半までに金価格が4,250ドルに達する可能性があるとみている3。一方、ゴールドマン・サックスのアナリストは、特定のシナリオ下では2026年に5,000ドルに達する可能性があると指摘している4。
中期的に金価格を押し上げ得る要因の一つが利下げだ。金利が低下すると、利息を生まない金を保有する機会費用が低下する。もう一つの要因は、米連邦準備制度理事会(FRB)の独立性への懸念である。独立性が損なわれるとみられる場合、金は大きな恩恵を受ける可能性がある。中央銀行の政策や安定性への信頼が揺らぐ際、投資家は通貨価値の毀損やインフレに対するヘッジとして金を活用することが多いためだ。
仮に金価格がさらに上昇する場合、金鉱株のバスケットがアウトパフォームする可能性は十分にある。比較的固定的なコスト構造により、金鉱企業の利益率は原資産である金価格の上昇ペースを上回るスピードで拡大するとみられるためだ。
脚注:
1AngloGoldAshanti、Year End 2924 Earnings Release、2025年2月19日時点
2Kinross、Second Quarter Report、2025年7月30日時点
3J.P.Morgan、「Will gold prices break $4,000/oz in 2026?」、2025年6月10日時点
4Investopedia、「Goldman Sachs Warns Gold May Reach $5,000 if Federal Reserve's Independence is Compromised」、2025年9月8日時点